浦和家庭裁判所 昭和46年(少ハ)1号 決定 1971年5月13日
少年 B・M(昭二五・九・二七生)
主文
本人B・Mを昭和四六年八月三一日まで医療少年院に継続して収容する。
理由
一 本件申請理由の要旨は次のとおりである。
(一) 本人は昭和四五年四月一八日関東医療少年院に収容され、その後同年九月一六日少年院法一〇条により小田原少年院に移送され、昭和四六年四月二日現在(本件申請時)同少年院に在院中であるが、同年同月一六日をもつて在院期間が満了するものである。
(二) 本人は関東医療少年院において精神病質の疑いありとの診断を受けたものであつて、その性格の偏倚が著しく、特に対人関係面での思考方法や行動傾向に異常性が強い。
(三) 本人には、関東医療少年院在院時に教官に対する反抗行為、他院生に対する暴行等の、また小田原少年院移送後は集団逃走計画への参加、さらに全期間を通じ他院生との度々の口論等の問題行動が認められ、しばしば単独処遇を受けたりしたため、所定の教育過程の履修が遅れ、昭和四六年三月一日に至りようやく一級下の処遇段階に進級したものの、一級上の処遇を終えるまでにはなお相当の期間を要する。
(四) 本人の家庭には実母、実妹のほか義父、義妹(実母の内縁の夫とその連れ子)がおるが、本人と右義父、義妹との間には激しい葛藤が存し、実母も現状のままではとうてい本人を引取れないものと判断して、近く義父等と別居して本人を受入れたい旨の意向にある。
(五) 以上、本人の精神病質的行動傾向等や家庭の受入態勢の不備に鑑みると、前記在院期間満了と同時に本人を退院させた場合には再非行に陥る危険性が強いので、仮退院後の保護観察期間を含め、右期間満了時から一年間の収容継続が必要である。
(六) なお、本人は体育訓練による性格矯正を試みるため小田原少年院に移送されてきたものであるが、今後、さらに精神病質面の改善を図るべく関東医療少年院に再移送し、精神医学的・心理学的な治療、処遇を受けさせる予定である。
二 本件少年調査記録によると、本人は、当裁判所において、昭和四三年四月五日窃盗保護事件につき医療少年院送致の処分を受けて関東医療少年院に収容され、昭和四四年七月二一日同少年院を仮退院したが、昭和四五年四月一七日犯罪者予防更正法四三条一項に基づき再び医療少年院に戻し収容されたものであることが明らかであるところ、右戻し収容による在院者について、少年院法一一条二項以下の規定による収容継続が可能であるか否かについては争いが存する。
しかしながら、当裁判所はさきに右戻し収容の決定をなすにあたり、当時の年齢が満一九年六月余であつた本人の戻し収容による在院期間は一年間が相当であるとしつつも、その期間については当然に少年院法一一条一項但書の適用があるものと解したうえ、決定主文に期間を掲記しなかつたものであり、本件申請者である小田原少年院長においても、この見解に則つて本人を処遇し、右決定時から一年間を経過する日をもつて在院期間が満了することを前提として本件収容継続の申請に及んだものであつて(前記少年調査記録中の戻し収容決定謄本、小田原少年院長作成の本件申請書参照)、一般的に戻し収容による在院者について収容継続が許されるか否かはさておき、少くとも本件の如き場合には、本人は少年院法一一条一項の在院者に該当するものといえるから、同法同条二項以下の規定が適用され、当然、収容継続もなし得るものと解するものである。
三 そこで、本人についての収容継続の当否を判断する。
家庭裁判所調査官の調査結果および本件審判時における本人、その実母ならびに関東医療少年院分類保護課長の各供述を総合すると、前記申請理由(二)ないし(四)および(六)の事実のほか、本人の他院生との衝突等は他人の存在や視野が過度に気になつたり、故なく攻撃や侵害を受けることをおそれて不安を感じたりすることからの強迫的攻撃行動とみられること、本人は予定どおり昭和四六年四月関東医療少年院に再移送され、精神病質的傾向の是正を図るための精神医学的、心理学的な処遇を受けており、同少年院の処遇過程を終えるには少くともなお三ヵ月余(同年八月まで)を要することが認められ、右事実に照すと、本人について少年院法一一条二項の事由があり、前記期間満了後も収容を継続する必要があるものと認められる。
四 つぎに収容継続の期間について検討する。
当裁判所は本人の戻し収容に際し、「右少年(本人)の精神的ないしは性格的欠陥を治療、矯正するためには相当長期間を要するではあろうが、…………現状においては、特に隔離施設に長期間収容して治療を継続すべき必要性も認められないので、この際は少年(本人)に明確な治療指針を与え、それに適応し得る生活習慣を身につけさせるをもつて足る」との見解のもとに収容期間は一年間が相当と認めたものであるが(前記戻し収容決定謄本参照)、現在においても根本的には右見解が妥当するものと考える。
ただ、前記認定の事実に照すと、在院一年間をもつてしては右の目的を達し得なかつたわけであるが、右戻し収容に至つた経過と退院に対する本人の期待、これまでの本人の非行の重大な一因と考えられる家族間葛藤解消に対する実母の熱意等諸般の事情に鑑み、本人の収容継続期間がさらに長期にわたることは避くべきであり、関東医療少年院における処遇段階一級上の過程の終了が予定されている昭和四六年八月末日までとするのが相当である。
なお、仮退院後の保護観察期間を予定し、より長期の収容期間を定めることも考えられるが、本人においては、さきに保護観察に全く適応し得なかつたことから、それを極度に嫌つており、本人の性格、心情に鑑みると、その効果は期待できないので、これを考慮しないこととした。
五 よつて、関東医療少年院職員の意見をきいたうえ、少年院法一一条四項に則り主文のとおり決定する。
(裁判官 尾方滋)